深夜高速を俺のための曲だと思っていた、そう語る彼にどうしようもなく心惹かれて救われた。
深夜高速を私のための曲だと思ったから。
_____
彼の結婚観はたぶん一般的な人のそれと違っていた。
冠番組のバラエティで、同じ場所に人がいることがストレスだし、プライベートに踏み込まれるのが嫌だから結婚するとしても別居婚がいいし別に結婚したくないといって女性ゲストにブーイングを浴びせられていたことを覚えている。あまりにも自己中心的すぎると。
あの頃何度も繰り返し録画を見た冠番組の中身なんて何も覚えていないのに、そのバラエティの発言のワンシーンだけはどんな表情をしていたかも衣装もすべて鮮明に覚えている。
自分を中心に据えて、普通を否定して生きたってかまわないんだなとぼんやり思っていた。
他人にやさしいようで自分を軸にして自分を中心にして生きていく、一人で何だってできる、を体現していた彼が私の指針だった。
22から23歳くらいのグループとしての活動もなくて、個人の仕事もなかった時期の話を聞くのがすごく好きだった。本人にとってはたぶん辛い記憶なんだろうと思ってたけど、私にとってはこんな才能の塊みたいな人でも私と一緒なんだと思えるから。
眠れなくて寝酒していた話に一番救われた。世界からはみ出たみたいな生き方の人なんだと思って。
そういう話を恥ずかしげなくできる部分にも救われていた。いつか私のはみ出ていると感じている部分も昇華して肯定できる日が来るのだと信じてやまなかった。
彼に人間を感じる瞬間が好きだった。こんなにできた人間でも私と同じ部分を持っているんだと、世間の普通に乗れないのだと。そしていつか乗れない自分を肯定できるのだと。
私にとっての神様だと思っていた。
________
結婚できるんだと、したいものだと思えたという事実に打ちのめされている。
彼の職業的に結婚は妥協とか流されるようにしてできるものではない、きっと。
結婚したいとすら思っていなかった彼が、どうしても結婚したいと思えた、誰かのために生きたいと思えた、それが衝撃だった。
私にはそれができないから。
元カレに結婚する未来が見えないといって振られたとき、結婚という未来が延長線上にあるということが衝撃だった。
今の彼氏に結婚したその先の未来の話をされるたびに困惑してしまう。どうしてそんな未来が存在しているのか、どうしたら誰かと結婚したいと思えるのか。
彼の結婚で、付き合う人を自己実現の道具にしている私にも、気が付かないふりをしていたけど。
自分の選択を、生き方を、存在をどうしても肯定できない私は明るくて自己肯定感が高くて人の輪の中心にいる人に惹かれてしまう、その人に肯定されれば許された気がするから。
肯定できない今をやり過ごすことに必死な私は、その先のことなど考えられない、今のこの一瞬の自分への承認を得ることに必死だから。
好きとかあんまりよくわからない、この人に承認されたら楽だろうなと思うところから世間一般が恋愛と呼ぶ何かを始めている。これを恋愛と呼ぶべきではないのかもしれないけれど。
あれだけ結婚観に利己的な理由を並べ立てる自分のために生きている彼も、どこかで私と同じだと思って、彼でさえそうならと許されている気がしていた。
_____
深夜高速を、人生を変えた歌だといっていた。
生きててよかった、そんな夜を俺も探していると言っていた。
私もずっと探している、生まれてきたことを肯定できる自分になりたいと思っている。
何かが変われば、救われると思っていた。
彼氏ができればちょっとはましになると思っていた。
いないよりはいた方がいいかもしれないけれど、それは本来自分で何とかしなくちゃいけない現実を転化して辛うじて生きているだけで別に現実が変わっているわけではない。
彼氏の感情をないがしろにして利用して立っているという罪悪感さえ残っている。
現実を他人に転化して生きることを辞められない限り、きっと私は恋愛をできないし、結婚なんて考えられない。きっとそんな日は来ないと思っている。
彼もそうだと思っていた。
_____
中高のときは大人になれば現実が変わると思っていた。
大学生になって世界が広がっても何も変わらなかった。別に死にたくなる頻度は変わらないし、責任だけが増えて苦しくなるだけだった。
全然生きててよかったと思えていない。
彼が結婚したことにショックを受けているわけではない、大安に結婚を発表するのも彼らしいねと思っている。彼が大切にしたいものが増えたのもうれしい、よくわからない感情だけど。
違う、彼が結婚できることにショックを受けている。
私みたいに自分のためにしか生きられない人間ではないことにショックを受けている。おんなじだと思っていた部分も本当は違ったのかもしれないと思って全部否定された気持ちになっている。
彼が昇華できたもろもろの感情を私は昇華できず一生このままなのかもしれないという恐怖も抱えている。
40年近く生きていれば、間違いを正解に思えたり間違っている部分を治せたりするのかもしれないけれど、まだ20年ちょっとしか生きていない私には40年は途方もなく長すぎる。
_____
深夜高速をひたすら流し続けながらこの文章を書き続けている。
加藤さんは生きててよかったと思える夜を見つけられましたか?私はこの先もずっと見つけられそうにないです。
結婚おめでとう。